武富士の会社更生法適用申請について
貸金業大手である武富士が、9月28日、東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請しました。
この申請は同日裁判所に受理され、近く武富士に対して会社更生法に従った手続が開始される見込みです。
報道によれば、武富士が抱える負債は4,336億円とのことで、消費者金融業者が行う法的整理としては過去最大のものです。
会社更生手続が始まりますと、武富士と取引がある方に対して大きな影響を与えることになります。
武富士の顧客数は250万人とも言われていましたので、多くの方に影響が及びます。
そこで、会社更生手続の流れと、武富士と取引がある方への影響がどのようなものになるのかを、見ていくことにしましょう。
会社更生手続とは?
会社更生手続は、手続終了後も事業を続けていく「再生型」の法的整理手続で、手続終了によって事業が終了する破産手続と区別されます。
同じ「再生型」の倒産手続としては民事再生がありますが、会社更生法は、大規模な会社で、社会的な影響が大きな会社の法的手続を対象にしていると言われます(大規模な会社でも民事再生が利用されることがありますので、両社の利用場面が明確に区別されているわけではありません)。
古くは吉野家やマイカル、現在進行中のものとしては、日本航空(JAL)も会社更生法を使った手続で、再建を図っています。
会社更生法は、このように大規模な法的整理事案を対象としていますので、原則として裁判所された選任された更生管財人が手続と会社の経営を行ないます。
しかし最近では、会社のことをよくわかっている経営陣に手続を行わせたほうが良いのでは?という考えが強くなっています。
そこで、主要な債権者が同意していたり、経営陣に違法な行為がない事などを条件に、経営陣が会社更生手続を行う「DIP型会社更生」が認められるようになりました。
報道によれば、武富士もこの「DIP型会社更生」を使うようです。
会社更生手続では、更生計画(返済計画)を提出し、債権者や裁判所の認可を受けたあと、計画に沿って支払を行っていくことになります。
通常、更生計画では、経営を立て直すために債務の額を大幅に減少させることになります。
計画が認可されれば計画通りの返済がスタートしますが、認可されない場合には、更生計画を進めることは出来ません。
この場合、多くは破産など別の手続に移行することになります。
会社更生手続の流れ
更生手続開始の申立て
会社更生手続を行う場合、まず裁判所に申立てをしなくてはなりません。
この申立てを法律上は「更生手続開始の申立て」と言いますが、一般には、「会社更生法の適用を申請」と言われています。
この申立てがされた場合、裁判所は、会社更生手続を開始する原因があるかどうかを調査し、更生手続開始決定をします。
保全管理命令など
更生手続開始の申立てがなされると、信用不安はますます大きくなります。
そうしますと、我れ先にと債権者が殺到し、更生会社の財産を勝手に持ち出したりする可能性があります。
そこで、裁判所は、必要な場合には進行中の訴訟や強制執行をストップさせる中止命令や、今後の手続を起こさせなくする禁止命令などを発することができます。
武富士に関しても、保全管理命令・強制執行に係る包括的禁止命令・保全処分命令が発令されています。
これにより、武富士に対して現在行なわれている訴訟手続や強制執行は中断し、新たな訴訟や強制執行を行うことは出来なくなりました。
また、保全処分命令もでていますので、武富士は支払をすることも出来なくなっています。
更生手続開始決定後の手続
債権者が権利を行使するためには、更生手続に参加しなくてはなりません。
更生手続開始決定と同時に債権を届け出る期間が定められますので、債権者は自分の債権額や種類、担保の有無などを書面で届け出ます。
管財人は、届け出られた債権を調査し、異議があるものは債権額を決める手続を行うなどして、会社が負っている債務額を確定させていきます。
その後、管財人や会社は、返済についての条件や再建の手法などを更生計画としてまとめます。
まとめられた更生計画は債権者による決議に付され、以下の条件を満たした場合に可決されます。
- 更生債権の債権額の2分の1を超える賛成
- 更生担保債権額の4分の3以上の賛成
- 株主の議決権の過半数の賛成(ただし、最近の更生事件では株主が議決権を持つことは稀なようです。)
更生計画が可決された後、裁判所では更生計画の内容を審査した上で、要件を満たす場合には更生計画の認可決定がなされます。
あとは、更生計画で定められた返済計画に沿って返済が始まり、返済が終了すれば更生手続は終了になります。
取引がある方への影響
武富士からの借入れがある方
基本的に従来通りの返済が行なわれますので、影響は殆ど無いでしょう。
借主(=顧客)側で返済を怠ったりしない限り、会社更生手続によって一括返済を求められる事はありません。
ただし、更生計画のなかで、貸付債権が他の会社に譲渡されたり、更生手続の中で社名を変更する可能性もあります。
この場合、返済先の口座が変更になることもありますので、注意が必要です。
同じように会社更生手続を利用したライフの事案では、カードの使用や返済方法についての取り扱いが、全国紙の紙面広告に掲載されていました。
詳しいことについては、これらの発表や通知を確認してからの対応になるでしょう。
武富士に対する過払金がある方
会社更生手続が開始された場合、武富士に対する過払金の回収は非常に困難になります。
既に武富士と和解済みで入金を待っている過払金については、予定された期日に入金されることはないでしょう。
また、更生手続開始申立ての同日に保全管理命令が出されましたので、訴訟や強制執行も中断することになりました。
武富士から過払金を回収するには、「更生債権者」として、会社更生手続に参加しなくてはなりません。
更生手続による権利行使には非常に時間のかかるものです。
昨年度のデータですと、申立てから開始決定までが約1ヶ月、開始決定から計画の認可までが約1年(DIP型の手続では若干短縮されるようですが…)、認可から手続の終結までが約8ヶ月の時間を要します。
以前より早くはなったとはいえ、全体で約1年9ヶ月以上の時間を要することになります。
他社への過払金請求はどうなる?
消費者金融業界を代表する武富士が法的整理を開始したことにより、他の貸金業者に対する信用不安が広がることはほぼ確実です。
おそらく、貸金業者全体が資金調達に苦しむようになるでしょう。
また、武富士の一件で不安になった借主が「急がないと、他社の過払金が取れなくなるかも」と一斉に請求を始める可能性も否定できません。
そうすると、貸金業者の資金繰りはますます厳しくなっていくことが想定されます。
現在過払金があるかも?と思われている方は、対応を急がれたほうがよろしいかもしれません。